「その子が支社長に石を投げて怪我をさせました。
 人に石を投げてはいけないと注意しました。」

 淡々と告げると女性は力なく呟いた。

「そう……でしたか。」

「注意したところ支社長は悪魔だから何をしてもいいと。」

 目を見開いた母親は我が子を見つめた。
 そしてやっと倉林支社長に視線を移してこめかみに当てているハンカチに気づいたようだった。

 頭を下げて、子どもの頭にも手を添えて下げさせた。

「うちの息子がすみませんでした。
 よく注意しておきます。」

 心にそぐわない言葉を発していることが顔の表情からも声色からも読み取れる。

 私は肩に掛けていた鞄の紐をギュッと握りしめて口を開いた。

「子どもは大人のことをよく見ています。
 子どもに胸を張って言えないようなことはしないでください。」

 言わなきゃ良かったのかもしれない。
 けれど言わずにはいられなかった。

 女性はカッと目を見開いて訴えた。

「では!では、フォレスト工業の支社長さんは胸を張って言えるんですか?
 こんなにも自然を壊しておいてフォレスト工業の発展の為だって。」

「だから支社長を悪魔呼ばわりですか?」

 大人げない。分かってる。
 だからって怪我をさせた当事者の方がその言い方はないんじゃない?

 再び顔を俯かせた女性に憤りを感じて唇を噛み締めた。

「失礼します。」

 ここにいても何も生まれない。

 会釈をして踵を返した。