ラインが来ない。電話が来ない。
たまに来たかと思えばバンドの話ばかり。
瞬間瞬間の不満によって、遠くにいる光くんへの想いを見失っていた。
すぐ近くにいた男友達の祐希が、わたしの居場所になっていた。
今思うと、あんなに仲がいいはずなのに、祐希のことがよく分からない。
一緒にいると、何かが起きるんじゃないかという不安と期待が生じ、何も起きないと安心と物足りなさに襲われる。その繰り返しだった。
次第に、次はどうなるんだろうと心がわくわくしていた。
その感覚にやみつきになっていた。
なかなか本心をさらけださない祐希に、もっと踏み込んできてもらいたいとさえ思っていた。
そして――
『じゃあ今は他のヤツのこと考えるなよ』
ぎりぎり保っていた境界線を越えてしまった。
雰囲気に流された、という言葉には腹が立ったけど。
祐希にわたしを見てほしいと思ったのは確かだ。
わたしがしたことはれっきとした浮気だ。光くんへの裏切りだ。
ライブハウスを出てからも、『東京』の最後の歌詞が耳に残っていた。
『息苦しいこの街で きみを想えば息ができる 生きていける』
異性の友達とのキョリを壊した先にあったのは、
浅はかでバカな自分と、
恋人からの確かな愛情だった。