ギュッ……

「…新井くん…本当に…」

私は、新井くんの胸に手を当てて

もう一度、離れようとした。

その瞬間…

ギュッッッ……

新井くんの腕に更に力が込められる。

無理……

力が強すぎて逃れられない……っ。

でも時より…その腕の力が緩くなり

…私の髪の毛を優しく撫でる。

そんな風に優しく撫でないで…。

「…新井くん…本当に…。」

ガタッ

「はーい、お疲れ様でした~!」

観覧車のドアが開いた瞬間……

私は、新井くんの腕を振り払って

観覧車から飛び出した。

「……紗和っっ!」

新井くんが私の名前を呼んでいたが

振り返らずに、雨の中

駅まで走り続けた。

ハァハァハァ……

改札を通ってそのまま電車に

飛び乗る。

プルルルルッ……

ガシャン…

電車のドアが閉まると一気に力が抜けた。

「………っっ」

言葉にならない後悔が胸を覆う。

「……今の、何?…どういう事…

どうして…こうなったんだっけ……。」

私の頭の中がパニック状態になっていた。

動き出す電車の窓を見ると…

全身ビショ濡れの新井くんが

肩で息をするようにホームで

立ち尽くしていた。

新井くんは、長い前髪を掻き上げて

ホームを一生懸命、見渡していた。

新井くんの前を電車が通過する瞬間…

その瞳が電車の中にいた私を捉える。

彼と目が合う…。

新井くんは叫んでいた。

「……え……」

"紗和"って言った?

私…

彼の気持ちを弄んでしまった。

……傷つけた。

すべて…私の責任だ。

本当にどうしようもない…。

教師…失格。

でも…今日はずっと嬉しくて…

何かすごく幸せな気持ちで…。

私達は先生でも生徒でもなかった。

ただ…彼といると、楽しかった。