「何でニヤケてんだよ、気味悪い」


「壱夜くんの優しさが嬉しくて…。勉強教えて貰ってる私は幸せ者だなぁって思ってたの」


「は?寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ」


「寝ぼけてるわけじゃなくて、思ってたことが自然に声になって出ただけ」


照れくささを感じながら笑うと、壱夜くんはクシャクシャと頭を掻いた。


「なんか、碧瀬といると…調子狂う」


「そ、それって…どういう………」


「そんなの、俺にもよく分かんねぇよ。それより、早く勉強しろ勉強」


「う、うん…」


慌てて問題に取り組み始める。


集中しなくちゃ…と思いつつも、頭の中は壱夜くんの言葉で占拠されていた。


“調子狂う”って、悪い意味…?


でも、もし嫌われてるとしたら、“アンタといるとストレスになるってことだよ”とかハッキリと言いそうだよね、壱夜くんの場合。


トクンと小さく鼓動が跳ねた。


良い意味で捉えてもいいかな…?


今の私たちの距離感が少し近付く前兆なんだ…って、前向きに。