「ほんとだな、どうしたの冬菜ちゃん?」

「なんだ、運動音痴なのか?」

誠君と夏樹君が不思議そうな顔をして尋ねてくる。

逆に、男の子ってこういう行事好きだよなぁと、私は思った。

夏のジットリとした暑さがこもる教室の中、生徒たちの熱気にあてられて、どっとした倦怠感が襲う。

みんなが、『優勝』という二文字のために、闘志を燃やしている、それがまた暑さを助長しているのだ。

『それもあるけど、運動自体が好きじゃないんだ』

文字アプリを活用して、そう伝える。
どちらかというと、読書、映画鑑賞が好きなインドアタイプな私にとって、体育祭なんて地獄だと思った。

「冬菜ちゃんは琴子と同じ、障害物リレーだしょ?そんなに動かないから、大丈夫だぴょーん!」

だしょって……ぴょーんって……。
琴子ちゃんは、私を励まそうとしてやってくれているのだろうか。

少し考えて、恥ずかしがる様子もなくニコニコしている琴子ちゃんの顔を見ていたら、違うな、彼女は素でやってるんだと気づいた。

「誠、お前の彼女、ついに話し方まで忘れたみたいだぞ」

「そんな琴ちゃん、プリティだよ」

「そうだよ、そういうヤツだよな……お前は」

あぁ……また、夏樹君が遠い目に。
この暑さの中、ふたりのラブラブっぷりさえ、熱く怠いものはないなと、げんなりする。

私は心配になって、夏樹君の長い人差し指をギュッと握った。