「誰に……だっけ」

過去の記憶を手繰り寄せると、その温かい記憶より、胸の奥底に眠る嫌な記憶の方が蘇る。

忘れもしない、小学6年生の12月のこと。
凍えるような寒さが、心さえ凍り付かせてしまいそうな冬のことだ。

***

『おい、なんか喋れよ原田地蔵』

隣の席、クラスでもムードメーカー的な存在の男の子が、本を読んでいる私の方を見てそう言ったのがわかった。

視線を向ければ、蔑むような笑みを浮かべている。

『…………』

話せないのをわかってて、男の子は何度も私を笑った。

この時、私は自分が病気だということを知らなかった。

いつも、どうして学校だと声が出せないんだろう、そんな疑問と焦りに押し潰されそうになっていた。

みんなに変に思われないように大きく頷いたり、笑ったりして、話せないことを悟られないように必死になることが辛かった。

たくさん苦労して、頑張ってきたつもりだった。

それでもみんなには隠しきれず、私は愛想の悪い同級生というレッテルを貼られ、何を言われても話さない私を、次第にからかうようになったのだ。

そのたびに泣きそうになって、唇を噛みしめるの繰り返し。

まるで、永遠に終わらない地獄のようだと私は思った。