「莉彩、お父さんには挨拶した?」


「ううん、これからするところ」


私は棚の上に置かれている遺影の前に立つ。


はにかみながら笑う写真に手を合わせた。


お父さんは、私が小学2年生の春に、交通事故で天国へと旅立ってしまった。


正義感が強くて、ちょっと照れ屋だけど優しくて…。


自慢の、大好きなお父さんだった…。


「お父さん、新しい学校でも明るく元気に頑張るから、見守っててね。行ってきます」


笑顔で声を掛けた後、グレーのダッフルコートを着て、白いマフラーを巻く。


「それじゃあ、行って来るね!」


「気を付けて行ってらっしゃい」


お母さんに手を振って、マンションを出た。


綺麗に澄んだ冬空の下、キンと冷えた空気の中を足早に進んでいく。


良い天気だと、なんだか幸先がいいなぁ…。


余裕を持って早めに家も出れたことだし…


順調、順調…!


新しい高校生活への期待に胸を膨らませながら歩いていた私だったけど…


5分後、その気持ちは焦りへと変わることになる。