「ふ、ふあぁ…」

 テーブル越しに彼は私を引き寄せた。

 昼間、見せられたのと同じように、彼は私の唇に自分のそれを押し当てた。

 お酒とメンソールの混ざった味。

 彼は私の唇の閉じ目を舌先で優しく撫で、開かせて内に挿し入れる。
 ゆっくりと焦らすように、彼の舌先が口腔の粘膜を刺激する。

「ガン見しててただろ?」

「っ…」

 一度離してもう一度、今度は深く口付ける。思うままに舌を絡め取り、からかうように吸い上げる。

 突き飛ばせば離れられるが…身体が痺れて、上手くいかない。

 耳朶に右手が触れ、後れ毛を耳にかけながら撫でる。

「そこ…駄目…」

「してくれって、言ってるようなもんだぜ?」

 耳元に響く甘いテノール。
 
 …それって反則…ですよ。
 
 もう一度キス。耳朶を弄びながら、今度は焦らすようにソフトに。私から、彼の舌使いを求めてこさせるように。

 なんて意地悪。
  
 どうしよう。
 何だかおかしい。
 頭がボーッとなってきて、身体の奥がジンジンと…

 その頃にはもう、私はすっかりオオカミさんに絡め取られていた。


 そっかあ…水野さんが言ってたのは、これだったんだ。

 ナルホド、大神秋人は相当に手癖が悪い。

 でも、解っているのに止められない。

「ホテル、戻るか?」

 私の状態を見抜いているのだろう。

 彼は、愉しそうに問いかける。

「ん…」

 こんなのダメ…

 思ってるのに、頷かずには居られない。