「失敬。花束の中に蜂がおりましたゆえ」


足元を見ると、身体が縦に真っ二つになった蜂が落ちていた。

前を見ると、どこからか出していた刃の長いナイフを構えた市木がいた。

いつの間にそっちに移動を?

それを納刀させると、市木は花束を渡してきた女子生徒に睨みを効かせた。


「不注意とはいえ、唐沢財閥の御曹司様にお怪我をさせるおつもりで?」

「ご、ご、ごめんなさいぃ!!以後気をつけます!!」


女子生徒は怖気付いて頭を下げ、足早に去っていった。

ギャラリーも市木の放つ殺気にざわめき始めた。

市木の喋りが流暢になってる……

しかもあのナイフ捌きと瞬間移動のような身のこなし……常人に出来る事じゃない。

本当にに殺人鬼だったのか?


「時流様?行きましょう?」


悠々と背筋を伸ばして闊歩する市木。

……刃物を振りかざしても、何も無かったようにふるまってる。

こいつは、やっぱり―――

別人のようなその姿に、俺は何も言えなかった。