時刻は17時、私はネオン街をウロウロしている。右手には携帯、左手には名刺。


松村さんとの約束当日、"ageha angel"に向かっていた。


どこもかしこもキラキラ輝きを放つ建物ばかりが並んでおり、気持ちが落ち着かない。


しばらく歩くと、遠くの華やかな男女が目に入る。


顔が見えるところまで近づくと、女性の方が先に私に気づいた。


「…何か用?」


明るい茶色の髪をぐるぐるに巻き、ハーフアップにしている。


露出度の高いドレスを身に纏い、何重にもしているつけまつげのお陰なのか、目力が相当強い。

圧倒された私はつい声が裏返る。


「ひぇっ!?い、いえ!!」


すると、男性が振り向いた。


「あー、来たのか」


「ま、松村さん!!」


華やかなオーラを放っていたのは松村さんだった。


一緒に居るところを見ると、彼女は恐らくお店の人だろう。

風貌が明らかにキャバ嬢だ。


異次元な世界観だなと思い、場違いな自分は肩身が狭く感じる。



「慶くんの知り合いなの?」


頭のてっぺんからつま先までゆっくりと目線を下げていく女性に、品定めをされているように感じてしまう。


「あー、ちょっとな。じゃあ俺行くわ」


「また明日ね〜」


上がる口角の形がとても綺麗で思わず見とれていると、『早く行くぞ』と松村さんに腕を引っ張られる。


今日は低めのヒールだが、勢いで足を挫いてしまった。


「あっ!」


どてんと情けなく倒れた私に静かに舌打ち。もう、何回聞いたことだろうか。


「どんくせーやつだな。ほら、早く立て」


強引に立ち上がらせ、松村さんは自分のペースで歩き出す。


足が長い松村さんの歩幅に合わせるなんて到底出来ず、こちらを振り向きもしない彼に一言言った。


「あ、あの!もう少しゆっくり歩いてくれませんか?一応私足挫いて…」


「んなもん知るか。早くしねーと日が暮れちまうんだ」


あまりにも乱暴で冷たい口調に眉をしかめながらも必死について行った。


日が暮れるとダメなの?どこに向かっているの?

そんなこと聞いたった今は答えてくれそうな気もしないから、黙って後に続くことしかできなかった。