上着を脱いだうなじと背中は、まだ冷たい汗で湿っている。ここで無理をしたら、すぐまた戻すに違いない。


「青(あおし)くんが、もうすぐ来てくれるからね」


「うん」と私に背中を向けた紅未子がうなずく。保健室を嫌う紅未子は、こんなときでも頑として行こうとしない。養護教諭である若い女の先生と馬が合わないからだ。

だからこういうとき、私たちはここへ来る。封鎖された屋上へ続く踊り場。

使わなくなった机や椅子がめちゃくちゃに積み上げられている中に、ぽっかりと空いた少しのスペース。

机の脚の間をくぐってそこに出ると、バリケードのように周りを囲まれて、外からは見えない。タオルやら毛布やらを持ち込むうちに、いつの間にか居心地のいい秘密基地と化していた。

水のペットボトルを、紅未子が開けようと苦心しているのに気づいた。手を伸ばしてそれを取り上げ、開けて渡した。

紅未子は震える手で受け取り、美しい喉をさらして何口か飲む。

屋上へと続くドアのすりガラスから差し込む淡い光が、紅未子の上に私の影を作る。白いシャツの胸元には、学年カラーである赤のネクタイが締められている。

紅未子にとっては二色目のタイ。


突然、ガタッとバリケードが動く気配がして、机のすき間から男の子が現れた。

背の高いその子は、ぱっと駆け寄った紅未子を、無言で受け止めて抱きしめる。朝練の最中だったため、まだ野球部のユニフォーム姿だ。

茶色く汚れたユニフォームから舞う土埃が、朝日に照らされて、きらきらと光る。


「アオ、ごめんね…」


首に顔を埋める紅未子の頭を、なだめるようになでてやってから、青くんが私を見た。


「ありがとう、助かった」

「ううん、練習中に呼び出して、ごめん」

「一ノ瀬(いちのせ)に謝られると困る。こいつが面倒かけたんだ」


そう言って彼が腕の中の紅未子をぐいと揺すると、紅未子が私を振り返って不安そうな顔をした。また謝ったところで、私が怒るだけなのをわかっていて、それでも謝る以外、どうしたらいいのかわからないんだろう。

思わず笑った私に、向こうも安心したように頬を緩めた。