「うわ…」

「どうしよう、郁」



前脚に白いテーピングを貼られた、小さくて茶色いむくむくしたものを膝に乗せ、健吾くんは「どうするよこれー」と見たこともないくらいデレデレしていた。

なんだこりゃ。



「やばい、動けない」

「会社どうしたの」

「離れらんないから午後休とった。明日死ぬけど仕方ない」



重症だ。

最後の授業が空き時間だったので、SOSもあったことだしと自習せずとっとと学校を後にしてきた私は、部屋に上がるなり目にした光景に言葉を失った。



「あの、健吾くん、動物飼ったことある?」

「ない。憧れてたけど」



危険…。

私はスクールバッグを隅に置いて、健吾くんの膝の上からくりっとした目をこちらに向けている犬に、そっと手を伸ばした。

小さな鼻の気が済むまで匂いをかがせてやる。

ぺろっと舐めてくれたところを見ると、合格したらしい。



「おいで」

「あー、脚が疲れた」



幸せそうに健吾くんが伸びをする。

ワンコは首回りのメガホンを邪魔そうにしながらも、おとなしく私に抱かれてくれた。



「ポメラニアンとパピヨンが入ってるって」

「なるほど。ほかにもなにか混ざってそうな感じだよね」

「保健所と警察も行ってきた。今のところ届け出はなし」

「お疲れさま、ありがとう」



捨てられちゃったのかね、お前。

かわいそうに。


病院でシャンプーと爪切りをしてくれたらしく、昨日よりだいぶ犬らしくなっている。

昨日はもう、ほぼ毛玉だった。


ちょっとくしゃっとした鼻面に、大きなリボンみたいな耳。

目の周りと耳と背中が濃い茶色で、そのほかは薄い茶色だ。