ケータイ小説 野いちご

好きなんだけど!

そう言って、ひょいと親指で指した先には、建物の入り口が、淡い紫色に光っていた。

そうか、このあたりはそういう場所だったのか。

壁に値段が書いてあったので、思わずまじまじと見て、それが高いのか安いのかよくわからず、とりあえずあの男の人はこれを初回無料にする気だったんだな、と納得した。



『なにチェックしてんの』

『いや、見慣れなくて』

『あ、使ったことないんだ?』



使ったことというか、そういう行為そのものもですね…とここで説明するのも気が引けて、こくんとうなずく。

健吾くんは、片手をポケットに入れた姿勢で、私を上から下までさっと見ると、なんのためらいもなく尋ねた。



『入ってみたい?』



…回想していて思ったんだけど、この健吾くんは、それはそれでなかなかなんというか、アレじゃないか?

でも後から聞いたところによると、この時点では、下心はいっさいなかったんだって、ほんとに。

なんとなく面白そうだと思って、そう訊いてみただけ、らしい。


でもなあ、訊き方がもう、うますぎるよな。

もしこれが、『入ってみる?』だったら、私は『いや、いいです』と首を振っただろう。

でも、入ってみたいかと訊かれたら、そりゃあ興味はあるから、うん入ってみたい、となる。

そんなわけで、再度うなずくのに、なんの葛藤も必要なく、そんな私に健吾くんは、実に爽やかに笑いかけた。



『じゃ、コンビニ寄ってこ』





「この間のシュークリーム、どこの?」

「学校の裏のケーキ屋さん」

「イートインのあるとこ?」

「それ、ちょっと前ね。最近お店が入れ替わって、テイクアウトだけになったんだよ」



うわあーと兄が嘆いた。

お風呂上がりのタオルを首にかけて、冷蔵庫の中を眺めている。

やがて缶ビールをひとつ取り出すと、リビングにやってきてソファに身を沈めた。

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