「気づいたら、手当たり次第に買っていたというか」

「へえ、先生でもそんなことあるんですね」

 驚いて答えると、日向はなんだか気まずそうに頭を掻く。
 彼らしくない行動と、普段とは明らかに違う雰囲気に、居心地の悪さを感じた私は、おもむろに席を立った。


「先生、珈琲のおかわりいかがですか?」

「……ありがとう、いただきます」

 会話が切り替わったことに、日向は安堵しているようにも見える。
 
 ……私、なにかいけないこと言った?


「あの、木崎さん」

 ぐるぐると思考を巡らせながら、珈琲を淹れ直していると、日向から話しかけられた。

「はい?」

 パッと顔を上げると、すぐ近くに日向の顔。彼の方も急に私と視線がぶつかって驚いたのか、滅多に表情の変わらない日向が、目を見開いた。かと思うと、また視線を逸らしてしまう。

「先生?」

「……驚かせて失礼。木崎さん、よかったら珈琲と一緒にお菓子を召し上がりませんか? 戴き物ですが、僕は甘いものは好まないので」

 そう言って、何事もなかったかのように日向が取り出した箱には、カラフルなマカロンが詰まっていた。

「わあ可愛い! いいんですか?」

「もちろん」

 私は二人分の珈琲のおかわりを用意すると、再び彼の前に腰かけた。

 可愛らしいマカロンを前にして、私は先ほどまでの微妙な空気のことなどすっかり吹き飛んでしまった。


 マカロンを片手に仕事のこと忘れ、日向と二人、今までに読んだ本の感想などを語り合った。

 こんな風に彼と仕事を介在させず向き合ったのは、この時が初めてだったかもしれない。