「話を聞くことしか俺にはできないけど、俺・・・力になれる?お前の目を見てると俺と同じ目だって思うときがあるんだ・・・実は。」

先生は視線を窓の外に向けたまま、呟くように話す。

「え?先生も、何か悩んでるの??」

先生は、優しい微笑みでその質問を誤魔化した。

「どうしようもない悩みって、辛いよな。努力ではどうしようもできないことって。」


先生は、タバコを消して、ラジオの音量を消した。


「話せるか?」

先生は、靴を脱ぎ、運転席にあぐらをかいた。

「誰にも・・話したことないから何から話したらいいかわかんない。」

「いいよ。」

先生は、唇の端を上げて大きく首を縦に振った。

「あのね・・私、お姉ちゃんがいるんだけど、すごく荒れてて・・。私が小さい頃からいじめられたり、泣かされてたの。でも、中学くらいから、お母さんにひどいことするようになって・・うぅ・・」

お母さんの笑顔が頭に浮かび、涙が止まらなくなった。

先生は、私の頭の上にそっと手を置いて、その手をゆっくりと動かす。

「お母さん、ずっと自分の幸せなんて考えないで、家族のためだけに生きてきたの。それなのに、どうしてお母さんが苦しまなくちゃ・・ならないのかなって・・。」

「お母さんにとって、矢沢の存在がどれほど大きいかわかるか?」

先生は、じっと私の目を見つめてそう言った。

お母さんは、私が寂しくないようにいつも私のこと見ててくれた。
いつも、私に「ごめんね」と謝ってた。

私の存在がお母さんにとって、どれほど大きいかなんて考えたことなかった。

お母さんは、私がいることで少しはラクになってる?


「お父さんは、仕事で遅いからほとんど毎晩、お母さんと私・・泣いたり・・してて・・」

車の中の空気は、先生と私だけの物。

狭い車内で、私は先生に自分の心の中をさらけ出した。

30分くらい・・・先生は何も言わず、頷きながら話を聞いてくれた。


誰かに話すことがこんなにも気持ちを軽くしてくれるなんて知らなかった。