ケータイ小説 野いちご

鬼課長の憂鬱

 その町を後にし、別のある場所に向かって俺は車を走らせた。

 天気は良く、道はさほど混んでなく、飛ばしはしないが、ちょっとした加速感を楽しみながら俺はステアリングを握っていた。うっかりすると鼻歌の一つでも歌いたくなる気分だが、隣の詩織の事を思ってそれは自制した。

 車が走り出してから、詩織は殆ど無言だった。おそらく過去に思いを馳せつつ、この後の事を心配しているのだと思う。

 出来れば詩織に辛い思いはさせたくないが、正直なところ、そうなる可能性は十分あると思う。それでも敢えてそうさせたのは他でもなく俺であり、詩織は抵抗していたが、最後は渋々ながら同意してくれた。


 カーナビに従って車を走らせて行くと、大きな橋に差し掛かった。これを渡れば埼玉だ。

 広い川面が陽を反射してキラキラ光り、綺麗だなと思う一方、嫌な事を思い出したりして、少し先に目をやれば、薄茶色の土手が見えて来た。

 俺の記憶では緑だったが、季節が違うという事なんだな。


 橋を渡ってすぐの交差点を右に曲がった。つまり、土手に沿って走って行く。しばらく行き、カーナビが次のT字路を左折しろと言ったが、俺はそれを無視して直進した。


「琢磨さん、今の所を曲がらないと……」


 すぐに詩織はそれに気付いたのだが、


「そうだね。でも、その前に少し寄り道しようと思ってさ」


 前方に土手へ登る脇道が現れたので、俺はそちらに向かってハンドルを切った。


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