「話を戻すけど、あの怪文書の送り主に、あんたは心当たりあるの?」

「ないよ。まったく」


 正直、その話はもうしたくなかったが、野田に悪いのでそれは言わなかった。


「そっか。私はあるのよ。証拠はないから、全くの憶測だけどね」

「ふーん、誰なんだ?」

「ここだけの話だけど、小島君が怪しいと思う」

「ああ、なるほど。あいつの性格ならやりかねないな。あいつなら、他人のメールをハッキング出来そうだしな」

「でしょ? それにさ、依田君って、当時は2課のサブリーダーみたいな立場だったでしょ? リーダーはもちろんあんただけど」

「まあ、そうだな」


 当時、社員では俺を除けば依田が一番年長だったから、当然そうだったと思う。


「今のサブリーダーは誰?」

「ん? そりゃあ、小島だな。俺の次に年長だから」

「でしょ? つまり、小島君にとっては依田君が邪魔だったんじゃない?」

「そうかあ? それはこじつけじゃないか?」


 サブリーダーと言っても平は平なわけで、給料がいいわけでもなく、それになりたいなんて思うものだろうか……


「あんたは地位とかには拘らない人だけど、世の中には拘る人もいるのよ? むしろそういう人の方が多いと思う。小島君ってさ、依田君がいなくなってからは、あんたの目をかすめてやりたい放題だって、私の耳にも入ってるのよ?」

「そうなのか? あの野郎……」


 と言ってはみたが、それは俺も薄々は知っていた。実は知っていて、好きにさせているのだ。管理者としては、よろしくない事ではあるが。


「だから、気を付けた方がいいと思う」

「何をだ?」

「何をじゃなくて、小島君が次に狙う相手は、あんたでしょ?」

「え? 俺?」

「そうよ。あんたを蹴落とそうと、虎視眈々と狙ってるかもよ。あんたに落ち度がないかどうか……」

「恐いな」

「あと、詩織ちゃんには気を付けてあげてよ? 前も言ったけど、小島君って女癖が悪いらしいから」

「そうだな。十分気を付けるよ」


 俺を狙う云々については、いまいち本気で気を付けようとは思わなかった。やりたきゃ好きにしろって感じで。

 だが、詩織に関しては別だ。今までも油断はしなかったつもりだが、ますます気を付けてやらないといけないなと、俺は思った。