「目上の人が立ってる時は、自分も立つものだって、教わった事はないのか?」


 座ったままアホ面で俺を見上げる玉田に言ってやると、玉田は慌てて立ち上がった。前言撤回。こいつは躾も出来てないらしい。

 俺は深呼吸をひとつして、今にもこの若造を怒鳴りつけたい衝動を堪えた。


「聞くが、おまえの上司は森さんか?」

「いいえ。違うと思います」

「思いますじゃない。おまえの上司はこの俺だ。そうだろ?」

「はい、もちろんです」

「俺が言ったか? 新人に雑用をさせろって」

「そ、それはないですけど、逆にこれと言った指示はいただいていないかと……」

「なっ……」


 あぶない、あぶない。俺は今、“なんだ、その言いぐさは!”と怒鳴るところだった。


「俺が指示をしなかったのは、しなくてもおまえなら解ると思ったからだ。とんだ買い被りだったようだが」

「…………」

「おまえ、もしかして高宮は障害者だから、雑用でもさせとこうって、そう考えたのか?」


 部長のように。


「と、とんでもないです」


 部長ほどバカじゃないらしいな。


「おまえ、高宮の待遇は知ってるよな? 人事発令は見たんだろ?」

「見ました」

「では言ってみろ」

「せ、正社員のSEです」

「だよな? おまえは、正社員のSEにあんな雑用をさせてるわけだ。誰もそれをする人がいないなら仕方ないよな? 社長が掃除したっていい。だが、うちの課には庶務をやってくれるパートナーさんがいるだろ? 森さんがそのリーダーだ。彼女らがいるにも関わらず、給料のいいSEに雑用させてどうするんだよ?」