「なんだよ……」


 ぶっきらぼうの低く掠れた声は、誰が聞いても不機嫌だとすぐにわかるだろう。


 しかし、電話の向こうから聞こえたのは、そんなこと気にしないと言わんばかりの、夜中に迷惑極まりない大きな声だった。


『おい、聞けよ恭也!』


 開口一番、鼓膜が破けるんじゃないかとさえ思う声量で聞こえた声の持ち主は、今布団の中で丸くなっている佐伯恭也の友人(腐れ縁ともいう)、中原慶だった。


「慶、うるさい。つーか、なに? 今寝る直前だったんだけど。眠いんだけど」


 興奮気味の慶に対し冷めた声の恭也は、今にも閉じそうになる瞼と格闘しつつ、そう声を発した。


『あ、わりい。寝るとこだったか』


 一応謝罪を述べる慶だが、その声のトーンからはそんなことは微塵も感じられない。


 しかし、それにすら慣れた恭也は、内心イラつきながらも慶の言葉に耳を貸している。


 こういう時の慶には、何を言っても無駄だと知っているが故の対応だ。