お岩さんはキョトンとして桜を見つめる。


「これを・・・わたくしにくださるの?」


「うああ~~うぅ」


しま子の手の中の桜の枝は、根本がギザボロ。


たぶん、そこら辺の桜の木の適当な枝を、力任せにボッキリとへし折ったんだろう。


・・・あの、しま子それ、立派な自然破壊なんですけど・・・。


お岩さんの目が、桜からしま子へと移る。


しま子の大きな丸い目が、無くなりそうなほど細められた。


二本の牙の生えた鬼の口が、ニコぉっと優しく微笑む。


「ああうぅ、うあ~~ぁ」


何度も繰り返し、一生懸命にお岩さんに話しかけるしま子。


ぜんぜん言葉になってない鬼語だけど、あたしにはちゃんと聞き取れた。


『元気、だしてね』


・・・優しいしま子は、傷付いた人の心をいつも敏感に読み取るから。


精一杯の真心で慰めようとしてくれる。


悲しむ人の味方になろうとする。


そして差し出される花。温かい笑顔。


「・・・・・・・・・・・・」


お岩さんの目の周りと鼻の頭が、じんわりと赤く染まった。


そしてしま子から桜の枝を受け取る。


「ありがとう。しま子」


胸元にギュッと薄桃色の枝を抱く彼女は、しま子に負けないぐらい素敵な笑顔だった。


その笑顔を瞬時に引き締め、宣言する。


「みんなで行きましょう。島へ」


さあ、行こう。


目指すは常世島だ・・・・・・!



お岩さんの声を合図のように、あたしたちは一斉に宝船へと向かって駆け出した。