すぐに扉がバタンと閉められた。
お岩さんの両腕が、かばう様にあたしの体を包み込む。
「セバスチャン、出してちょうだい」
指示に従い、セバスチャンさんが手綱をパシッと鳴らして牛車を動かす。
ガラガラと音を響かせ、車輪が急速に回転し始めた。
窓の外に、見送ってくれている凍雨くんたちの姿が見える。
あたしを見る、その気遣わしげな表情。
そして困ったようにチラチラと、視線を後ろに向けた。
みんなの視線の先には・・・
門川君が、茫然と立ち尽くしていた。
「天内君!」
あたしの名前を呼んでいる。
あたしに振り払われた手を、こちらに向かって差し伸べながら。
メガネの奥の綺麗な目が、困惑と疑問に満ちていた。
彼はあたしを追うように駆け寄ってきたけれど、牛車は止まらず進む。
あっという間に、あたしたちの距離は離れていった。
門川君の姿が見る間に遠ざかっていく。
まるで、置き去りにされるように。
小さくなる彼の姿が、頼りない幼子のように見えて胸がズキリと痛んだ。
あたしは涙で潤む目で、その姿を見つめる。
悲しい気持ちに混じって、彼への強い罪悪感が湧き上がってきた。
罪悪感? 悲しいのはあたしの方だ。
あたしの方なのに・・・・・・。
痛む心を抱え、すすり泣きながら、あたしは門川君を見つめ続けた。
牛車はスピードを上げ、門川君を置いて、前へ前へと進んでいく。
彼の姿が、どんどん、どんどん小さくなっていく。
その寂しげな姿を、あたしは目を凝らして見つめ続けた。
でも、すぐに・・・
彼の姿は、あたしの眼には見えなくなってしまった・・・・・・。