塔子さんのイラついた声に、あたしはますますヒザを抱えてうずくまった。


しま子が隣に座って、そんなあたしを心配そうに見守っている。


手に天ぷらソバの器を持って、しきりに「食べて」と言うように突き出して勧めてくれた。



「ありがとう、しま子・・・。でもちょっと無理かも・・・」


「しっかりしなさい。こんなことで弱音を吐くなんて」


「塔子さんはいいよね。好きなマロさんと結婚できてさ・・・」



あたしのボソボソしたセリフに、塔子さんがハァ・・・と大きな溜め息を吐いた。



「でもぼく、ちょっと永久さまの事、見損ないました!」


凍雨くんがバリンバリンと、たくあんを齧りながら憤慨した。


絹糸がしきりに感心する。



「実に良い音をたてて食うのぉ。惚れ惚れするわい」


「なんで永久さまは、あんなこと言ったんでしょう!?」


「信子の、『蜘蛛の糸』の術に嵌められたのじゃよ」


「まさか! いくら長老相手でも、永久さまがあんなババァ・・・いえ、術にかかるなんて!」


「永久にとって小娘の存在は、最大の武器であり、弱点でもある、ということじゃ」



以前、門川君が自分で言っていた。


『人は、大切なものほど判断を狂わせてしまう』 と。