不機嫌そうに吊り上がった目でこっちを見る姿からは、俺をまだ許してないんだろうなってことが見て取れる。


 まあ、そりゃそうだろう。


 なんたって、俺が約束を破ったんだから。


 恭也が俺を許せないのは、当たり前だってわかってる。


 ……一体、いつからだったのか。


 恭也が亜希に対してだけ、すこぶる優しいと感じたのは。


 感情表現がヘタなコイツが、亜希の前ではいろいろな表情を見せていることに気が付いたのは。


 もう随分と前のことのように感じて、はっきりとは思い出せない。


「……そんなこと、わざわざ言いに来たのかよ」


 さっきまでいじっていたバラのトゲでボロボロになった手をポケットに突っ込みながら、恭也を睨む。


 そんな俺に、相変わらず冷たい視線を向ける恭也。


 俺らの周りはピリピリとした空気が漂っている。


「別に、今日俺引っ越すし。慶が宮下さんに手出さないように忠告しに来ただけだけど」


 そう言うコイツの手には、大きめのバッグがあった。


 ……つーか、引っ越し前に俺なんかのとこ来てないで、亜希に会いに行けよと思う。