俺は落ち込んで廊下のベンチに座っていた。だって、男からそんなこと言われたこと無いし、みんなすぐいくんだもん…。

スッ
「え…?」
後ろから誰かに抱き締められてる。
「本当に、行っていいの?」
声の主は、さっきのお客さんだ…。どうしよ…。怒って出てきちゃったけど…。さっきの冷めた感じでいた方がいいのかな…。

俺が悩んでいると、首筋に何か柔らかいものが触れた。
チュ…
「…っ!!」
く、くすぐったい!!

この人、…俺にどうしたいんだろ…。冷たくしたいのか…。甘えたいのか…。

考えている間にも、キスをされる場所も増えていった。…何度か吸い付かれるような痛いキスもあった。

やっとキスが終わり、俺がそっと振り向くと、その人は、俺の手をとった。
「…戻るぞ。」
「はい。」

部屋に連れ戻されていく間、何故か懐かしい…っていっても思い出したくない香りがお客さんからした気がして、胸がキューっと締め付けられた。

カチャン…
静かに扉を閉めて振り返ると、お客さんはもう帰る支度を始めていた。

「お客さん!!あの…今度はうまくやるので…。その…満足してもらえなくて…すみません…。」
あ~、俺なんで謝ってんだろ…。コレじゃ、下手だって認めてるみたいだ…。

俺は、情けなくて顔をあげられずにいた。

すると、お客さんは、俺の顎を優しく持ち上げた。
「…フッ、何て顔してんだよ…。」

その顔は、さっきの冷たい顔とは違って、愛しいものでも見るかのような、優しい微笑みが浮かんでいた。

「だってェ……。グスッ」
俺、何で泣いてんだろ…。初めてあった…よりによって男に何でこんなに安心しきってんだろ。

「ゆあ。」
え?何でこの人、俺の本名知って…。
驚いた顔が表に出ていたのか、もっと優しい顔になって俺の唇に唇を重ねた。

「良かった。お前は、何も変わってないんだな…。」
「え?あの…「そろそろ帰る。」

「あ、待ってお客さん!!」
俺は、お客さんの服の裾を掴んだ。

「俺、お客さんって名前じゃないから。」
「え…。名前で呼んでもいいの?」
「…当たり前だろ?『皐月』って呼べ。」

そういって、皐月さんは、部屋から出ていった。