瀬奈は、私が急に固まったり俯いたりしたから、失恋相手が目の前に現れて動揺してるんじゃないかって心配してくれてるんだと思う。

そんな優しい瀬奈に、「何でもないよ」と笑顔で返した。


練習は案の定、集中出来なかった。

視界の端には常に先輩がいたし、先輩の声ばかり拾ってた。

私が好きな先輩の眩しい笑顔もプレー中の真剣な瞳も全部が卒業前のままで、私の心臓が大人しくなることはなかった。


先輩はというと、運動不足気味って言ってたくせに、全然テニスの腕は鈍ってなくて。

先輩のプレーを見たことない一年生までもが、たった一日で先輩のファンになってしまうほどだった。



「望月さん、これ運ぶの手伝ってくれる?」


練習が終わり後片付けをしていると、先輩が数脚の折り畳み椅子を両手に抱えながら言った。


ベンチが壊れて急遽出した折り畳み椅子は、テニスコートからだと体育館とプールを挟んだ向こう側、校庭の脇にある体育倉庫に片さないといけない。

男子でも一人で持って行くには大変な距離だ。