何か変なものでも食べたのだろうかと、昨夜からの記憶を辿ってみたが思い当たらない。気分が悪くなるほど部活で走った訳でもない。不思議に思っていると携帯電話が鳴り、快は慌てて鞄から携帯電話を取り出し、サブディスプレイを見た。
「もしもし」
オープン通話設定にしているのでそのまま開く。スピーカーから少女の声が聞こえてきた。「もしもしあたし!」
恋人の瀬奈だった。
「部活、途中で帰ったみたいだけど……大丈夫?」
心配そうな瀬奈の声。快は携帯電話を握り締め、ゆっくり口を開いた。
「何か……気持ち悪くて……」
「え……? 大丈夫?」
快の言葉にそう、瀬奈が返してくる。
「うん」
快はそう返事し、いきなり気分が悪くなった事を彼女に話した。
「――うん、じゃ後で」
そのまましばらく話して電話を切る。さっきまでの不快感がまるで嘘のように、本当に気分はすっきりしていた。
神童快、十七歳、高三。
スラッと背が高く、陸上部に籍を置く、どこにでもいる普通の男子高校生。性格は無口で真面目。中一から付き合っていて、両家公認で幼馴染でもある彼女がいる。名前は城ヶ崎(じょうがさき)瀬奈、同じクラスの十七歳。
この日、この突然の"違和感"から、二人の丸五年に渡る戦いの日々が、ゆっくりとその幕を開けた。