「はい、どうぞ」

 エレベーターを降りて、まっすぐ廊下を歩く。突き当りが玄関だ。

 逃げられない。

 だけど、……。

「ようこそ、僕の城へ。自ら来たいと志願してくれたってことは覚悟はできてるよね?」

 やっぱり、そう思われてる。

 だけどもう、今更否定できない。

 玄関の扉が閉まるなり、そこに押し付けられるように、ハルトの両腕が伸びて来た。

「逃がさないよ」

 目を合せるのが怖くて、顎を引いて視線を下ろした。

「どんな言い訳も、聞かない」

 顎を持たれ、いつかのように下から回り込むように唇を奪いに来る。

 舌がぐっと奥まで入ってきて、反射で何かに掴まりたいとその太い腕を掴んだ。

 後頭部を扉に押し付けられるほど、迫ってくる。

 数秒はその攻めに耐えていたが、しばらくすると身体に力が入らなくなり、ガタンと扉に私の足が当たる音がしたのをきっかけに、ハルトは一度頭を離した。

 ぎらつく瞳に、いつもの余裕はなさそうだ。そのまま、腕を引っ張られて部屋に入るのかと思いきや、耳元に顔を寄せ、

「ほら……」

 私の左手を自分の股間に当ててくる。

 思わず手を引っ込めた。

 ハルトは微笑しながら、

「いつも、何時間くらい寝てる?」。

 優しく手を引かれ、玄関に上がるよう促してくる。

 私は、質問の意図がわからず「12時から7時まで」と素直に答えた。

「ごめんね、一睡もできないかも」

「ワッ!!」

 肩を抱かれたと同時に足を持ち上げられ、お姫様抱っこの状態になる。

「足腰も立たないだろうね。ツボの奥まで刺激しちゃうから」

 低い薄い笑い声に、背中がゾクリとする。

「この前とは違う寝室だよ。今日のベットはスプリングがよくてよく跳ねるんだ。僕の動きにすごく合う」

 想像が先走り、太腿を擦り合わせてしまう。

 そして予告通り、前回とは違う部屋の扉を開けた。真ん中にあるのは広く真っ白なベットだけ。中に進むと、自動で間接照明が灯る。センサーライトのようだ。

 その真ん中に、ハルトは私をどさりと落とした。

「きゃ!」

 突然扱いが粗雑になり、怖くなる。

 見上げると、ハルトの顔がいつもと違っていた。性欲に満ち溢れた、いやらしい男になっている。

 私は思わず目を逸らしたが、素早く顎を取られ、強引に目を合せさせられた。

 このまま、飲みこまれてしまうかもしれない。

 それくらい瞳の色は、黒い。

「さぁ……」

 触れている指が、顎をゆっくり撫でまわす。

 既にその時点で、私はハルトの手中に完全に落ちていた。

 逃げたいのかもしれない。

 やめたいのかもしれない。

 だけど、やっぱりそうじゃない。

 期待が、その不安を上回ってしまっている。

 そう自覚したと同時に、トドメの言葉が降り注いできた。

 低く、よく響く声が全身を快楽へ惑わせる。

「今日はまず、どうしたい? どういう風にしたい? 1から10まで全部言うんだよ。その通りにしてあげるから。

例えば、何もかも忘れて、全神経を集中させて、大声をあげて、恥じを忍んでいきたいとする。

そのためにはまず、どこをどういう風にこねて欲しいやら、擦ってほしいやら、言ってごらん?

 言うんだよ。僕のために、僕に聞こえるように、言うんだよ」