突然の音に、ナナの心臓はドキンと跳ねた。そしてその音が、来訪者を告げるものである事に気付くまで、少しの時間を要した。

なぜなら、この洋館が来訪者を迎えた事は、ナナの記憶ではただの一度もなかったのだから。


ナナが茫然としていると、再びコンコンと扉が叩かれた。ナナは、意を決して扉へと近づいた。そして扉に額を付け、「誰?」と問い掛けた。

ナナは来訪者の言葉を待った。来訪者の声無き声を……


「ナナさん。僕は天馬博士から此処へ来るように言われた者です」


ナナは首を傾げた。どうやら来訪者は若い男で、その声ははっきりとナナの耳に届いた。だが、ナナにとって肝心の、声無き声が聞こえない。


ナナは迷った。ナナは、耳に届く人の言葉は、信じるに値しない事を知っていた。ナナは、否応なしに知っているのだ。声無き声こそが、その人間の真実を語る事を。