思い立ったらすぐ行動の菜摘は、その日すぐに髪を黒く染めた。

「…カツラみたい」

鏡に映る自分を見て大きなため息を吐く。

元々地味で童顔な顔が、髪を黒くしただけで、余計に地味さを引き出した。

「だから黒いの嫌なんだよ」

ここまで真っ黒にしたのはいつ以来だろうか。

黒髪に産まれてきたとは思えないほどの違和感。

化粧を落とすと、もう15歳に見えるのかすら危うい。



大輔は高校生。

大人っぽくなりたいのに。



でも受験生だからしょうがない。

絶対に受かりたいもん。

大輔と、同じ高校。

受験が終わったらまた染めればいい。

今くらい我慢しなきゃ。



髪を乾かして部屋に戻る。

なんだか勢いがついた菜摘は、勉強道具を取り出した。

最近テストがあったおかげで、何冊かは部屋に置いてある。

…まあ、活用した記憶はないけれど。



無難に数学の教科書を開く。

数学なのにどうしてアルファベットや変な記号が混ざっているのか…

疑問に思いつつも、シャープペンを手に取った。

いつもなら見ているだけで眠気に襲われるけど、集中したら止まらない菜摘。

ノートを数ページ埋めつくしたところで携帯が鳴る。

時計を見ると、勉強を開始してからもう3時間が過ぎていた。



【着信中:美香】

『美香』は他校の友達の1人で、たまに連絡がくる。

「はーい」

【菜摘?何してた?】

ハキハキした高い声。

後ろが騒がしい。

また遊んでるのかな。