中道が野球部の門を叩いたのは……



あの敗戦から、三日後のことだった。



本人から聞いた訳ではない。


佳明から…、報告を受けたのだ。




「マジびっくりしたよ。」



中道が試合を見に来ていたことなどてんで知らなくて、興奮気味に佳明は言った。



「いきなりグラウンドに来てさ、何事かと思ったら…野球部全員の前で『入部させて下さい!』って…。土下座だぜ、土下座!いや、今更っつーのもあったんだろうけどさ、あいつ馬鹿だろ?誰も反対しないっての。」



そう言いながらも、なんだか嬉しそう。



「そっか……。」



嬉しいのはもちろん私も一緒。



ようやく…踏み出すことができたんだね。



「…で、今日俺ら一年の中でも一番に来ててさ、グラウンド整備してやんの。いや~、なかなか貴重な姿見せてもらったよ。さっさと入部してりゃああんな下手に出ることないのにな。」


「…でも…、中道らしいね。やっと野球する気になったかぁ…。」


「……。柚はさ…、あいつから何か聞いてたの?」



…不意打ち。



「ううん、何にも。」


「ふ~ん。そっかぁ…。」



佳明にあの日何があったかを話しても…
別に良かったはずだった。




だけど私は……



言わなかった。



言いたくなかった。



あいつの涙を……



あいつの弱さを……




私だけが知っていたかった。




「…まあ、少し遅れただけだ。あいつなら…すぐ取り戻せるよ。」




「…だね。」




「…あ、もう時間。」


「早いな。」


「あ~あ、最近陸部と部活の時間帯ズレててつまんね~な。」


「こっちばっか見てたら監督にどやされるっしょ。」


「………。まあ、そうなんだけどね。」



「…じゃあ、行くね。」