「笑ったことがないのか?」
フェイが訊ねる。ディオンは頷いた。
「泣いたことは?」
「ない。……反対に、どうして笑ったり泣いたりするのかが、僕にとっては不思議だ」
フェイとアンネットは驚きを隠せない。
「どうして、欠けているの?」
思わず、訊いてしまった。
「育った環境が良くなかったからだろうな」
まるで他人事のようだ。ディオンの過去が気になったが、触れてはいけないような気がした。
「じゃあ、これからそういう感情を知っていけたらいいわね」
「別に知りたいとは思わないけど……」
「知った方がいいものだぞ。感情があるかないかで、世の中に対する見方がかなり変わるからな」
髪をくしゃくしゃ、とされる。
まるで子ども扱いされているかのようだ。
鋭くフェイを睨みつければ、彼は苦笑いをしながら手を引っ込めた。