…ねぇ、シンデレラ。
ガラスの靴はあたしにはないけど、頑張って一歩踏み出してみたよ。


あなたみたいに、あたしは素直になれないから。
気持ちが通じ合っても、自然には振る舞えないから。


だからゆっくり、少しずつ。


できれば…手を繋いで。


「ねぇ、瞬。」

「んー?どした?」

「手、繋いでくれる?」

「…いーよ。お手をどうぞ、シンデレラ?」


すっと差し出された大きな手に手を重ねて。
きゅっと握られたから握り返す。


「…瞬、王子様みたい。」

「みたいとか言うな、みたいとか。そこは王子様で言い切れ。」

「無茶言わないでー!」

「なんだよ、お前がこういう風に手、差し出されてみたいんじゃねーかと思ったからやってやったのに!」

「なんで分かったの!?」

「…やっぱな、当たってただろ?真姫のことだからな。」

「…瞬、凄い。」

「今更分かったか、バーカ。」

「王子様はバカとか言わないんだよー?」

「裸足のシンデレラ仕様の王子様なんだから妥協しろよな?」


手から伝わる気持ちと、温かさ。
その方がさっき食べたガトーショコラよりも何倍も何倍も甘い気がする。


「…妥協とか別にしてないもん。王子様は瞬だけ、だしっ。」

「はぁー…ったく、いきなり可愛くなっから焦るんだよ、真姫は。」


不意に視界が暗くなったと思ったら、ちゅっと優しい音を立てて唇が離れた。


…一番最後に一番甘い、キスが降ってきた。
―――そんな二人で過ごす初めてのバレンタインデー。


*fin*