彼のいない、辛く長い日々が始まった。
 

せめて彼の愛が小さな命として残り、このお腹に宿ってくれれば。

ひそかにそんな期待もしたけれど、叶わなかった。
 

私が悲しみに打ちひしがれる毎日を、彼は、神戸でどんな風に過ごしているのだろう。


苦労はしていないか、体を壊していないか、心配は尽きなかった。


「大丈夫だよ。父さんの古くからの友人が、こっちにいるんだ。
近頃はその人にすごくお世話になってるから」


と、電話で彼が話していた。
 


毎日の電話。

それは、ふたりをつなぐ重要な橋だ。


それぞれの一日の報告と、変わらぬ愛を確認し合うわずかばかりの慰めの時間。


だけど電話を切った後はいつも、言い様のない寂しさに襲われた。

束の間の幸せが電波と共にぷつりと切れてしまうのを、何度味わっても慣れることができないのだ。
 

こんな気持ちになるくらいなら最初から声を聞かない方がマシ。

そう思い、携帯の電源を切ってしまったこともある。

でも、1分ともたなかった。

切ったそばから恋しくなり、再び電源を入れて着信を待った。




「オレがスキャンダルを起こしたせいで、紫乃に苦しい想いをさせてごめんな」


彼は電話でもたびたび謝った。


「ううん、いいの。怒ってないから」


「……紫乃は、やっぱり最高の妻だな」


違う、それは違うわ、光……。


迷子になった子どもが、親を恨んだりはしないでしょう? 

ひたすら孤独と不安におびえて泣くだけでしょう? 


光、今の私はそんな子供と同じなのよ。