瀬奈から精神科か心療内科への受診を勧められた快だったが、彼女のその言葉を、快は本当の意味では受け入れていなかった。

 更年期障害なんてありえない――。瀬奈には悪いが、それが正直な気持ちで、後になって考えれば考えるほど、瀬奈の言葉は突飛な発想に思え、当然、病院に行く気等なかった。

 自分はまだ十七だし、第一、あれって女がなるもんだろう? そんな思いが頭の中を巡っている。瀬奈が調べて教えてくれた"男の更年期障害"。その、聞いた事もない名前に、快は思わず苦笑いした。

 そもそも、なぜ"更年期障害"が"精神科"や"心療内科"なのかが判らない。"更年期障害"が具体にどういうものか、男の快には想像もつかなかったが、それでも、精神科や心療内科ではない気がした。

「ふう……」

 いつもの何倍も、疲弊していた。最近は色々考えているだけで、ひどく頭が疲れてくる。快は目を閉じ、ベッドにひっくり返った。

 ――ひとまず、内科から処方された薬を飲み切ってから考えよう。それでまだ治らなきゃ、選択肢の一つとして考えよう。

 思考する事に疲れ、快はゆっくり目を閉じると、そのまましばらくの間、浅く眠った。



 薬を飲み始めて三日が経ち、袋の中が空になっても、快の症状は一向によくならなかった。

 もう一回、病院に行くべきだろうか? ダイニングで空になった薬の袋を見ながら、快はぼんやりと、視線を彷徨わせた。

 ――俺、どうしちゃったんだよ。マジで。

 寝ても覚めても体は辛く、食欲ももどらない。

『快、あんた、どこか具合悪いの?』

 病院に行った日の夜の、紗織の言葉がふと蘇る。快は椅子の背にもたれ、溜め息をつきながら目を閉じた。



「快、大丈夫?」

 手付かずの皿を見、心配そうに紗織が尋ねてきた。

「何か……しんどくて……。ごめん、食欲なくて……」

 快はそう答えると、すまなそうに下を向き、席を立った。

「病院は? 今日、行って来たんでしょう?」

「……うん」