冬が過ぎ、春が来た。

 三月、瀬奈たちは無事に高校を卒業し、隼人と菖蒲はそれぞれ希望の大学に進学が決まり、瀬奈はシステムエンジニアの勉強をしながら、耕助の友人の会社に働く事が決まった。

「じゃ、行って来ます」

 その日、瀬奈は快と共に出掛けた。

 快が最初に体調を崩してからもうすぐ一年。病状は一進一退で、目覚ましい進歩はなく、特に二月からは調子が悪く殆ど毎日を寝て過ごしていたが、この日は珍しく身体が軽く、天気もよかったので、快から「出かけよう」と、瀬奈を誘った。

 玄関で二人を見送った紗織は仕事が休みだったので、掃除や洗濯など、いつもより念入りに行いながら、一人きりの家で、何となくゆったりと過ごしていた。

 瀬奈が再び神童家に戻ってから四ヶ月。快は相変わらずだったが、瀬奈が出て行かなければいけないような事態はなく、皆でできるだけ暖かく、快を見守っている。

 シーツを干しながら、暖かくなってきた陽射に目を細める。と、突然、玄関のチャイムが鳴った。

 誰かしら。

 庭からリビングに入り、慌ててインターフォンを取る。

「はい、どちら様ですか?」

 少し声のトーンを上げて言うと、ざわついた外の音と共に、低い女性の声がした。

「入江です」

「あ……」

 紗織の表情が少し硬くなる。彼女はインターフォンの受話器を戻すと、慌てて玄関のドアを開けた。

「愛美さん」

 紗織の視線の先にいたのは、再婚して城ヶ崎家を出た瀬奈の母・愛美だった。

「瀬奈ちゃんならさっき、快と――」

「いいえ、今日は紗織さんに話があって……」

 紗織の言葉に愛美が少し寂しそうに微笑む。

「入って。お茶淹れるわ」

 紗織はドアを大きく開け、愛美を中へ招き入れた。

「話って?」

 愛美をリビングに通し、ティーカップに紅茶を淹れ、クッキーと共に盆に乗せリビングに入りながら紗織は尋ねた。

「瀬奈の事なの」

 愛美は持っていたバッグから一枚の写真を取り出すと、テーブルの上に置いた。

「これは?」

 写真を見て紗織が訊く。愛美は両手を膝の上に置き、小さく息をついた。