「走ってきたのか?」
玄関のドアを開けた快は、肩で息をしている瀬奈を見て、少し驚いたようにそう言った。
「……うん」
快の問いにうなずきながら、瀬奈は走って乱れた髪を手で直した。
――案外元気そう。
顔を見た事で生まれる安堵感。あのメールから数時間後、瀬奈は部活をサボり、快の家へ急行していた。
「み、水……くれる?」
「ああ」
瀬奈の言葉に快がキッチンからミネラルウォーターをグラスに注いで持って来る。瀬奈はそれを受け取ると勢いよくあおり、大きく息をついた。
「メール……見たんだけど……」
「ああ」
まだ少し呼吸が乱れている瀬奈を快が自分の部屋に通し、ベッドに座らせる。瀬奈は数回、深呼吸した後、ようやく落ち着きを取り戻して快を見た。
「どういう事か教えて……」
「ん……」快は自分でもよく判らないと言った顔をしながら頭を軽くかき、上目遣いに天井を見上げた。
「どうって……症状とか話したら、先生にそう言われたんだ。"うつ病"と"不安神経症"、両方の症状が現れてるって」
「両方の症状? じゃ、混合って事?」
「……よく判んねーけど、そーなんじゃない?」
案外落ち着いている快の様子に改めて安心しながら、瀬奈はもう一度大きく息を吐き出し、残りの水を飲み干した。てっきり、診断名に快がショック受けていると思っていたので、瀬奈は本当に安堵していた。よかった。大丈夫みたい。
「部活、サボったのか?」
時計を見て快が訊いてくる。
「えっ? あ、うん……」
瀬奈がうなずくと、快は「そんなに急いで来なくても……」と言いながら、優しく笑い、そっと、後ろから瀬奈を抱き締め、頬を寄せてきた。
「病名が判って……少し安心した?」
瀬奈がそっと訊く。
「ん、まあ」快は短くそう答え、ゆっくり瀬奈を離した。
「何も判らないって、すげー不安だったから、判って少し、安心してる」