気づけば隣にいた。


 嬉しいときも、泣いてしまいそうなときも、海はあの仏頂面だけれど、側にいてくれた。


 今でも夢に見る。青と緑に囲まれた故郷が、真っ赤に変わるところを。


 幼い私は何も出来なくて、逃げるのがやっとで。足は擦り切れて何度も転んだ。


 けれど、弟のくせに私の手を引きながら、涙一つも流さずに必死で守ってくれていた。


「海・・・」


 どうして、なんて事を問いかけることすら出来なかった。


 皆を裏切ったのか、なんて聞くまでもない。


 薄れていく意識の中で、菖蒲と海の会話を聞いてすべてを悟った。


”海は、私と袂を別ってしまったのだと”


 目が覚めて屋敷から飛び出した後、菖蒲たちの微かな気を辿って走る。


 もう覚悟は決まっている。


 弟の不始末は、姉である自分の不始末でもあるのだ。もう逃げることなど出来ないのは明白だ。


 ならば、この手で終わらせるしかないのだ。自分の手で・・・



「それが、死を意味することだとしても」