ケータイ小説 野いちご

Love at first sight.

6

「こんな感じです」

お店に着いて店長に声を掛けると、もの凄く驚いた顔された。また一緒だったのかと訊かれて、はいと答えるだけでもう精一杯で。
倉庫からお店に置いてる器具やらを一通り出して来て、説明する。
小型の手挽きミルや水出しコーヒー用のポッド、ペーパードリップやネルドリップのグッズにタンブラー、詰め物がコーヒー豆のテディベア…。
巽さんの意見を訊きながら三種類の豆と小型ミル、水出しポッドとタンブラーを二つ…セットにする事にした。箱は二段仕様にする。

「結婚祝いで熨斗は付けますか?」
「いや、そこまで格式張るつもりはないから君に任せるよ」

巽さんが見てる前でって言うのがドッキドキだけど、丁寧に包装紙で包む。右上に何種類かのリボンを束ねて長く伸ばした裾に鋏の背を沿わせて、ギューッと引っ張ってカールさせる。
何色も何本ものカールがふわふわしてる…うん、自信作!

「すごいな…プレゼントするのが勿体ないくらいだ」
「私の久々の自信作です。今度巽さんにも何か包装しますね」
「開けられなくなりそうだな」

こんな素敵な人に微笑まれたら、その気になっちゃいそうだよ…。パーティーの同伴?の事も…きっとちょうどよく私がいたから誘ってくれただけ…よく褒めたりくれるのも、自然に女の人を喜ばせる言動が身についてるだけの事で……。

「じゃあそれとは別にしなきゃですね」
「展示用と家使い用だな」
「巽さんはご自宅でコーヒー淹れたりされないんですか?」
「稼働率ゼロのコーヒーメーカーは鎮座しているが、片付けが面倒でね。自分で淹れるより、君が淹れてくれたコーヒーの方が旨い」

そんな風に言われると……ダメだよ…。

「決まり通りに一番おいしい淹れ方してますからね」
「君が淹れてくれるからに決まっているだろ?木下に淹れられても旨くもない」
「店長が淹れるのはやっぱりおいしいですよ?」

「木下が淹れても味気ないがな…やっぱり君がいい」
「あっ…ありがとうございますっ。袋…取りに行ってきます」

あんまりじっと見つめられるから、長く目を合わせられない…。倉庫へギフト用の袋を取りに行きながら、火照りを冷まそう……。


「巽」
「…なんだ」
「軽い気持ちで引っかけるつもりなら、さっさと手を引いてくれ」
「何だと…?」
「漸く入って来た社員の呉羽ちゃんが、お前に遊ばれて辞めるなんて事になったらどうしてくれるつもりだ」
「そんなつもりは欠片もないがな」
「あの子はお前が付き合ってきた奴らとは違うし、こっちにもまだ慣れてない。ましてやお前とは生きてる世界が違うんだ」
「だから何だ」
「異動してきた時からお前が目を付けてるのは知ってる…頼む……これ以上近付かないでくれ…」
「木下…」
「巽…あの子は純粋な子なんだ。お前が惹かれるのもわからなくもない…でもあの子は……」
「…諦めるつもりはない」
「巽っ」
「俺はチャンスは逃さない」
「お前は手に入ったらそれでいいかもしれないが、あの子は傷付く……釣った魚に餌をやらないのはお前の女との付き合い方の代名詞だろ」
「………」
「あの子は違うと言い切れるのか?必ずあの子は大切に出来る確証が…」
「…ない」
「だったら……」
「それでも俺は諦められない…これまでの何を覆し、切り捨てても…それだけは出来ない」
「巽…?」
「どんなに泣いて嫌だと言われても…退く事だけは……もう出来ない……」


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