ケータイ小説 野いちご

ヒミツの隠れ家

第二回



ビルの狭い階段を、男に手を引かれながら二階へ上がる。

「今、オープンしたばかりなんだ。たくさんサービスするから」

男が言うと、サービスという言葉がいかがわしく聞こえてくる。

「あの、私やっぱり……きゃっ!」
「ダーメ。逃がさないよ」

不安になって帰ろうとしていると男に中へ強引に引き入れられた。

「え……か、カフェ……ですか?」

おびえながら足を踏み入れると、扉の奥は間接照明だけで照らされた、温かな雰囲気のカフェだった。

内装は全て木で造られていて、こぢんまりとしている。

「君が最初のお客様。ソファ席がお勧めだよ。ゆっくりしていって」

変な所ではないことに胸を撫で下ろし、言われるがまま、ガラス窓に向けて置かれているソファ席に座った。

向かいに建つビルの谷間から、先ほど出た職場が見える。眺めはよくないけど居心地は悪くない。

それはふっくらとしたソファのおかげか、静かに流れる音楽のおかげか。それとも、柔和な笑みを浮かべる男のおかげか。

男は腰にエプロンを巻くと、レモンが香る水と、白い紙に黒字で書かれたシンプルなメニュー表を差し出してきた。

パスタやオムライス、アルコール類が載っている。

「最初のお客様には今日のお代はサービス。あと、このチケットも」

男は私に名刺サイズの紙切れを手渡してきた。見ると “いつでもコーヒー無料”と書いてある。



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