ケータイ小説 野いちご

ヒミツの隠れ家

第九回



私の隣に座った樹さんは、少し迷った様子で口を開いた。

「この店、閉めようと思うんだ」
「えっ!? ど、どうしてですか!?」

驚いて、思わず大きな声が出る。

「親父が一週間前に倒れたんだ。フランス料理の店をやってるんだけど、続けるのは厳しいらしくて、俺が継ぐことになりそうでね」
「そ、そんな……っ」
「元々継ぐつもりはあったんだよ。そのために、ここを開く前にホテルのレストランや親父の店で勉強したからね。だけど、まさかこんなに早く継ぐことになるとは思わなかったよ。『Caféサプリ』もこれからだと思っていたのに……」

樹さんは困惑した表情でため息を零した。

「樹さん……」

この店がなくなるのは辛くて寂しい。でも一番辛いのは樹さんだ。

「ごめんね。お客さんである千穂ちゃんに相談なんて……誰かの拠り所になれるようなカフェを作りたかったのに、俺が癒してもらうなんて、どうしようもないね……。いや、千穂ちゃんがすごいのかな」

力なく笑う樹さんに、胸の奥がキュッと締めつけられる。

「癒せているなら嬉しいですけど、私にそんな力ないですよ」
「あるよ。気づいていないだけだ」

至近距離で色っぽく微笑まれると息が止まりそうなほどドキドキする。私は慌てて視線を逸らした。



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