ってさっきのホテルの地下に停めてたらしい。

 え、ってほんとに行っていいのだろうか? いや、ハルト的に嫌ならいくつも断るスキがあったはずだ!!

「あ、ハイ」

ってすんなりついてく私もどうなんだか……。

 その車は大きくて左ハンドルで、国産車ではないことは一目で分かる、派手な車だった。彼は当然のように助手席のドアを開けてくれる。

「あ、ありがとうございます」

 慣れてんだろうなあ……。

「……ここからユウジさんちって遠くないですか?」

「30分くらいはかかるね」

 しまった、このドライブは完全に失敗である。だってもう会話がない!!

 左運転席に乗る彼とのこの微妙な距離に、深呼吸して落ち着きながら、話題、話題、話題、話題、と考える。

「座席、狭くない?」

「あ、少し……」

 食べたばかりのせいか、姿勢が窮屈な気がしたので、すぐに手を右にやってレバーを探す。

 右側ばかり気にしていたので、反応が遅れた。

 気付けば彼の頭がすぐ目の前にある。

 次に手が触れた。

「はい。これで少し楽?」

 親切心で運転席から手を伸ばし、レバーを下げてくれただけだが、思いっきりなんか、色々触れたんですけど!?!?
 
「行く前に電話しとこうか……」

 あまりの急接近に動揺して返事が遅れ、結局相槌も打てないまま。

「あ、もしもし……(笑)、いいよいいよそれは……(笑)。うんそう、乗ってる。うん、うん、とりあえずケーキは持ってってるよ。……え゛、何? 食えんのそんなの? ……ふーん、うんうん、分かった。とりあえず……買い物してから行く……あ、そっか。分かったじゃあケーキおいてから買い物ね……はいはい、はーいはい」

 買い物って何?

「ユウジ元気そうだったよ。予想通り寝てるだけでおなかすいてるって」

「良かったですね」

「うん、なんかたこ焼きが食べたいから作ってって」

 誰に言ってるの、それは?

「は、ハルトさん作れるんですか?」

「それくらいなら作れるよ。葉月(はづき)さんは?」

「えっ、私、名乗りました!?」

「(笑)、いや、ユウジから聞いてた」

「え、あ、そうですよね……え、ハルトさんですよね。ミュージシャンの。テレビに出てる」

「そうだよ(笑)。え、今更!?(笑)。こんな車に乗り込んだ後での確認って怖くない??」

「え、いやー、まあそうだとは思ってましたけど、確認してなかったなあって」

「危ないなあ。これで偽者だったら連れ去りだよ、完全」

「いやまあ自分も名乗ってないから大丈夫かなあって」

「全然大丈夫じゃないし」

 彼は機嫌よく笑っている。

「でもそういう連れ去りとかあっても不思議じゃないでよすね。なんか食事奢ってあげるよって言われてついてったら偽者で……って」

「あったんじゃないかなあ、昔」

「そうなんですか」

「うん、なんかあった気がする」

「へえ……」

 え、か、会話、早くも終わり!? えーと、えーと、えーと、えーと、

「は、ハルトさんってそういえばA型ですよね!」

「うんそう、よく知ってるね」

「私ちょっと血液型は気になるタイプなんです」

「そうなんだ。僕自分ではね、A型って気にしてるつもりないんだけど、周りからはよく言われるなあ。綺麗好きとか完璧主義とか」

「ああ……典型的なA型ですね。綺麗好きのA型、雑なB型みたいな」

「そうそう、だから血液型の本とか見てると結構当たってるのね。葉月さんは何型?」

「私はAB型です」

「あっ、ぽいね、なんかねー……分かる気がする」

「え゛、そうですか?」

「独特だよね(笑)。さっきの、こっちが名乗ってないから安全だなんていうところとか」

「え゛……いやあ……。そ、そうですかね……」

「いや、悪い意味じゃないからね(笑)」

「……はい」

「僕の周りにはあんまりAB型っていないけどねえ。やっぱり皆個性的だよね」

「AB型って二重人格みたいなところがあって……本で見ると、その、違う別々のことを同時に考えられるって書いてありました。けどそんなのほんとにAB型だけしかできないのかなって思いましたけど」

「あ゛―、どうだろうね……僕はできない気がするなあ……」

「え、そうなんですか」

「うん、一個に拘って考える方かな。それが終わらないと進めない場合が多いかなあ」

「なるほど……」

 ってこんな情報何の役にも立ちませんけど。

「そういえばたこ焼きって、何の材料がないんですか?」

「え? ああ、さあ、知らない。行って冷蔵庫見ればいんじゃない? 中何入れる?」

「私は何も入れないのが好きですけど」

「邪道!!」

「あんまりたこがおいしくない。海老いれてもイマイチなんですよね」

「へえー。けど、たこか海老以外も何か入れてみたいよね」

「いいですね! そうですね……。うーん」

「どうかなあ、キムチ、結構いけると思うなあ。うーん、チーズもいいと思う」

「うーん……」

「イカは絶対イケルね。あと……」

「あの、プリッツをさして、そのまま楊枝代わりに食べるっていいですよね。新しい」

「それ、中なくない?」

「ないです」

「おかしいよそんなの。お菓子なんか」

「ですかねえ。ところで、ユウジさん今日仕事休みだったんですか?」

「すぐ話題変わるね」

「え? ……あ、すみません……。いや……今のでたこ焼きの会話はもう終わったのかなーと」

「終わったの!?」

「え? 終わってないんですか(笑)」

「いやあ……まあいいけど」

 いや、沈黙にならないように、こっちだって気遣ってんのよ!!

「……」

「ユウジはね、さあ、今日は休んだんじゃないのかな。知らない……さあ、着いた」