―――リンゴ。







「―――リンゴ。………リンゴ?」





顔を上げると、目の前で紗江(サエ)が私を見ていた。





「ねぇ、聞いてる?」





「………あ、ごめん。何の話だったっけ?」





「成人式の話だよ。東京はすごい雪だったんでしょ?」





ああ、そうだ。





目の前には、中学からの唯一の連絡を取っている知り合いの紗江がいて、





ここは貧しい大学生に優しい安い居酒屋チェーンの店内だった。





意識が現実を再認識し始めると、途端に周囲の雑音が煩(ワズラ)わしく感じる。