幸子には、夫がいる。今年、42歳を迎える夫だ。幸子とは7歳差で、中年太りの冴えないサラリーマンである。結婚してから10年、最近は顔を合わすことすら減ってきてしまっている。夫は幸子へ愛の言葉、労いの言葉を一つとしてかけなくなっていた。

そうして、そのような夫婦生活を送る中、幸子はある青年を思うようになる。それは、真昼、何気なしに立ち寄ったカフェが始まりだった。



彼は店内に現れ、暫く視線をさまよわせると、幸子の座る窓際のテーブルにやってきた。幸子は最初、隣の席の美人と待ち合わせでもしているのかと予想したが、彼は予想に反し、真っ直ぐに幸子を目指して歩んでくると、相席を申し出たのだ。

向き合って座る二人。気まずくて俯く幸子とは違い、青年は饒舌にいろいろなことを話してくれた。

タイトなズボンに、緑色のセーター。ラインの入った襟元がお洒落なブラウス。好青年然とした容姿の彼は、今年で大学3年生で、ボランティアサークルに所属しているらしい。笑顔が人懐っこい犬のようで、幸子は少しばかりときめいてしまった。