「な、何だと!」

 ひ……百万円!?

 良くは、知らない。

 けれど、相場とケタが違うんじゃないかな、と言う事ぐらいは、判る。

 驚いているオジサンを無視して、男の人は、わたしの手をとって、素早く囁いた。

「守屋。早く来い。
 こいつはヤクザだ。
 ヤバい薬を飲まされた挙句に、犯されたいのか?」

 ……!

「ど、どうしてわたしの名前を知ってるの!」

 こんな知り合いなんて、わたしには、いない。

 夜の繁華街で、名前を呼んでくれるような友達なんて……!

 わたしの声に我に返ったオジサンは、口の中で唸った。

「お前!
 ダーク・クラウンの紫音(シオン)だな!
 ホスト風情が、良いところで邪魔しゃがって!
 これは、俺か最初に見つけたんだからな!
 街の掟では、早い者勝ちのはずだ!!」

 ホ…ホスト……?

 紫音、と呼ばれたその若い男は、オジサンの言い草に薄く笑った。

「オレには、ちゃんと商談成立しているようには見えなかったな。
 まだ決まっていない時は、より値段を高くつけた奴のモノだろう?」

 言いながら、紫音は、わたしをそっと自分の背の後ろに導いた。

 ……もしかして……もしかして。

 このひとは。

 わたしを守ってくれようと、しているの……?

「今は、手持ちの現金(キャッシュ)が百万だけど、カードで良ければもっと出してもいい。
 あんたは、このオレと競りで勝つ気?
 オレが誰だかわかってて、そんな喧嘩売るのか?
 あんた、年収を一晩で捨てるんだな……!」

「ぐ……」