兄、姉、自分の3人が兄弟らしく外食などするようになったのは、姉が高校に入り色気づき、自分も中学へ進んだ頃だと思う。
 それまでは、兄は既に就職して自分の道を歩んでいたが、自分と姉はまだ小学生と中学生で食事にもあまり興味はないし、そもそも小洒落た店にも入れない状態であった。
 姉が携帯電話を持ったのを機に、兄は月に一度か二月に一度くらい、連絡をとっては食事の段取りをするようになった。2度3人で海外旅行にも行ったこともある。親もその仲の良さに喜んでいたし、姉も満足していた。
 と思う。
 ただ自分は、兄弟として知り合ってしまった姉に、確実に恋心を抱きながらも、カムフラージュのために同級生などと付き合ったりして、不満な青春時代を送っていた。女の体を見れば反応する。それなりに、好きだという自信はある。だがそれが、姉ほどかと尋ねられたとしたら、その答えはすぐにノーだと出た。
 姉みたいに綺麗じゃない。
 姉みたいに可愛くない。
 姉みたいに純粋でない。
 姉みたいに、自分のことをわかってはくれない。
 姉と自分は、紙の上では兄弟だが血は繋がっていない。若い頃はそれが支えのようになっていたが、今はそんなことはどうでもいいと思えるほど大人に、いや、純粋に彼女のことを好きでいる。
 ただの人として。この人はどうしてこんなにも可愛いのだろうと。
「ねえ正美、聞いてる?」
 目の前でにこやかに笑いながら、皿の中の物を丁寧に平らげていくその食欲のよさと、健康な口ぶり。
「……え……なんだっけ?」
「もう! もう言わない」
「ごめんごめん、ちょっと一瞬考えごとしてて……」
「小説?」
 スプーンでスープをすくいながら上目遣いで尋ねた姉に何故か懐かしさを感じ、2人きりのランチはいつぶりだっただろうかと今更そんなことを思う。
「まあ、そんなとこ」
「正美って小説家じゃなかったら何になってたんだろうねえ。私、よく疑問に思うけど」
「さあ……。経営者も医者も向いてない気はするけど」
 ふと、本当の自分の父親は何者なのだろうという疑問が浮かんだ。だが、そんなこと、知ったって知らなかったって、今更何にも関係しない。
 今の父は忙しい人で昔からあまり話をする機会もなかったが、母親を支えてくれるのなら別になんだってかまわないと思ったていた。何故なら、自分が母親を支えることになるのが嫌だから。誰も気付いてないとは思うが、母親との相性が良いと感じたことはこれまで一度もない。むしろ、嫌いなタイプだった。
「いや、無関心さでは医者に向いてるかもよ。なんだっけ、医者は人に無関心な方が向いてるって言ってた。誰かが」
 どうせ前の彼氏のろくでもないうんちくだろう。
「へえ」