昼まではねこの“行ってらっしゃい”のチューでハイテンションな俺だったが、ヒロミンの失踪を知ってからは、すっかりテンションが下がってしまった。


 しかし定時が近くなると、急に気持ちがそわそわしだした。なぜなら、アパートに帰れば、可愛いねこが待ってるはずだから。


 職場の時計が定時を指すと同時に、俺は鞄を持って立ち上がっていた。


「川島、お先!」


「あれ? 早いな? 一杯やっていかねえか?」


 川島とは月に1~2回程度だが、会社帰りに飲み屋へ行く事があった。今日みたいな蒸し暑い日は、冷たい生ビールがさぞや旨いだろうな、と一瞬思ったが、


「悪いが帰る。ねこが待ってるんでな」と断った。


「ネコ? そう言えばおまえ、ネコ飼ってるんだったな?」


「ああ。今回、一匹増えたんだ。そいつが可愛くてさ。だから早く帰るよ」


「そんなに慌てなくても、ネコは逃げたりしないだろ?」


「いや、逃げるかも……」


 急に俺は不安になった。ねこは本当にアパートにいるだろうか。もしかして、出て行ったりしてないだろうか。もうねこに会えないかもと思ったら、胸が締め付けられる感じがして、居ても立ってもいられなかった。


「じゃあな!」


 俺は職場を飛び出し、可能な限り家路を急いだ。