午後10時24分。人気の無い細い山道を白い乗用車が走っていた。

「ふあああ、眠いー……」
 
後部座席に座っていた少年、刈間蓮<かりま れん>は大きな口を開け、欠伸しながら言った。

「だからついてこなくていいって言ったでしょう。あんた明日学校あるんだから」
 
蓮よりは少し年上の少女、飛高紅葉<ひだか くれは>は少し苛立った様子で言った。

「だって、一応俺も飛高家の一員なわけだし、総会に顔出しておいてもいいかなって思って。それに明日学校なのは紅葉も一緒じゃないか」

「あたしはいいのよ。それにしてもむかつくわね。何なのよあいつらはっ!」
 
その怒りの叫びを前の運転席で聞いた柔和そうな白髪交じりの男、和泉圭一郎は思わず吹き出した。

「……なあに、圭一郎さん、何か文句でもあるんですか?」
 
口を尖らせて言う紅葉に、圭一郎は穏やかな口調で語りかける。

「いえいえ、貴女は本当に元気があっていいなあと感心していたのですよ」
 
その言葉の意味を、紅葉は悪い方で捉える。

「どうせ子供だからって言いたいんでしょう? みーんなそう思ってるんだわ! 大体何よ、あたしが飛高の直系だからって総領に仕立て上げたくせに、その総領の話なんてまるで聞きやしないんだから! 実権を握りたいのならあんたらが総領になればいいのよっ! 体裁を気にしてこんな子供を総領だなんて、バッカじゃないの! ったく、何であたしがこんなにイラつかなきゃならないわけ!? こんな面倒なこと普通の高校二年生に押し付けるなっての!」