「はあ…。それで、その旅館は今どうなっているの?」

「今は逆に何にも起こらなくなった旅館として、ちょっとした話題になっているみたい。だけど…」

そこでサアヤは口元を引き締め、声を潜めた。

「―数日前、そこでボヤが起こったらしいの」

「ボヤ? 何が原因で?」

「ん~。何でも古い雑誌や新聞を焼却炉で燃やしていたところ、近くに置いてあった薪に火が燃え移って、その火が小屋に燃え移ったらしいの」

慌てて火は消されたものの、小屋は半分ほど焼けてしまったらしい。

「それを見て、女将が『祟りだ!』なんて言い出した」

「あらまあ…」

よくない道へ、女将は入りだしたらしい。

「祟り、なんてあそこでは起きない。元々あそこにいたのは生き霊と残留思念だけだったんだもん」

「生き霊と残留思念? …それが心霊現象の原因?」

「そっ」

サアヤはイスに寄りかかり、再び足をブラブラさせる。

「あの旅館、建てた頃はまだ経営は良い方だったんだろうね。でもだんだんと人は来なくなって、危なくなってきた」