ガチャッとドアが開いて、まっすぐ奈留に歩み寄って、彼女の頬を平手打ちしたのは…

彼女の母親…

三咲 朱音さんだった。


「そんな理由で…中絶とか…
考えないでよっ…!
それでもあなたは私の…産婦人科医の娘なのっ…?」

それだけ言うと、奈留の母親は病室を出ていった。

ベッドに倒れこみながら、頬を押さえている奈留に大丈夫?
と声をかけた。


「大丈夫っ…
たまに、こうして平手打ちされたから…」


もう…

一応、手術した身なんだから、もう少し優しくしてあげようよ…

平手打ちは…やりすぎなんじゃないの?


と…少しだけ思ったのも事実なんだけど。


俺は、奈留の母親にそう言いに行くことも…考えた。
だけど…やめた。


いくら、夫だからって…やっていいことと、悪いことがある。


これは…奈留と朱音さんの問題。

俺が首を突っ込んでも…ややこしくなるだけだと思った。


「ありがとう。
奈留はちゃんと…俺のことも考えてくれてたんだね?だからもう…自分を責めたりしなくていいんだよ?」

俺がそう言うと…ようやく彼女が笑顔を見せてくれた。

やっぱ…奈留は笑ってるほうが可愛いな。


だけど…この笑顔も…一瞬だけのものだったんだ。