「ねぇ、お嬢さん?ここら辺でいい?」


「………えぇ」



名無しさんに連れて来られた場所は、人目のつかない寺院だった。


(……名無しさんの返答次第で、新撰組の危険率は…確実に、上がる)



確実に止めなくちゃ。

絶対に、まだ時間はあるはず。


着物の裾をギュッと握ると、大きく息を吐き、名無しさんを見てみた。



「うわー、もう腐りかけてる。この寺院、全然手入れされてないねぇ」


「………」



相変わらず空気を読めないのか、緊張感のない含み笑いをしながら、寺院を眺めている。


名無しさんと目が合うと、何故か背中に寒気が走る。



「…ね、僕を誘ってくれたって事は、何か聞きたい事があるんでしょ?」


「……はい」



あたしは目を離さずに、コクリと頷く。


(…正しい事、言ってくれるのかしら)



「じゃあさ、僕もお嬢さんが聞いた数だけ質問してもいい?平等になるようにね」


「…………はい」



名無しさんから、笑みが消えた。

ううん、正確には…。

嫌な含み笑いをしているけれど、目が笑っていないんだ。